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大阪高等裁判所 昭和48年(行コ)9号 判決

大阪市天王寺区生玉町五一番地

控訴人

株式会社 アラビアン

右代表者代表取締役

古内恒晴

右訴訟代理人弁護士

長山享

大阪市天王寺区堂ケ芝町九八番地

被控訴人

天王寺税務署長

日隈豊

右指定代理人検事

細井淳久

訟務専門職 三上耕一

大蔵事務官 石川智

同 瀬戸章平

同 住永満

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人が控訴人に対し昭和三九年一二月二五日付でなした控訴人の(一)昭和三七年五月一五日から昭和三八年三月三一日までの事業年度の法人税について、所得金額を一、四三九万二、一〇三円、法人税額を五三七万七、三二八円(ただし、審査請求に対する大阪国税局長の裁決によって一部取消がなされた後のもの)とする更正のうち、所得金額につき六七三万六、七九〇円を超える部分、法人税額につき所得金額を六七三万六、七九〇円として算定した税額を超える部分及び重加算税一五三万一、二〇〇円(ただし、右裁決によって一部取消がなされた後のもの)とする賦課決定、(二)昭和三八年四月一日から昭和三九年三月三一日(「三月一日」とあるのは誤記と認める。)までの事業年度の法人税について、所得金額を一、二七七万九、八七八円、法人税額を四七五万六、三二四円(ただし、審査請求に対する大阪国税局長の裁決によって一部取消がなされた後のもの)とする更正のうち、所得金額につき八四五万九、〇九五円を超える部分、法人税額につき所得金額を八四五万九、〇九五円と算定した税額を超える部分及び重加算税一三六万〇、二〇〇円(ただし、右裁決によって一部取消がなされた後のもの)とする賦課決定をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示のとおり(ただし、原判決添付の別表2に「山村秀子」とあるのを「山林秀子」と、「括孤」とあるのを「括孤」とそれぞれ訂正する。)であるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人の主張

課税は本来実額に基づいてなされるのが原則ではあるが、収入金額と支出経費額との間には経済法則に従った論理的、経験則上の相関関係を見出すことは可能であり、課税官庁においては、毎年業種ごとの収入金額、経費の割合を算出して、いわゆる「標準所得率表」なるものを作成し、これによって右相関関係を把握し、推計課税の指標として利用している。標準所得率表は経費率表ともいえるものであって、同業種間においては特殊な事情がない限りその比率に大幅な差異がないのが実情である。

控訴人と同業種である同伴ホテルの上六地区における所得率はほぽ四〇パーセント、したがって経費率はほぼ六〇パーセントと算定され、白色申告の場合はこれを基準に算定されているのであり、本件の場合も支出経費を裏付ける資料が散逸して存在しないので、従前から主張するとおり、少くとも右所得率を適用し課税所得を推計するのが最も公平の原則に適合する。法人の効率表(甲第一号証の一ないし六)はいわゆる標準所得表といわれているものであるが、これによると六大都市の立地条件良好の同伴ホテルの所得率は四一・二パーセントであることが明らかであるところ、控訴人主張の昭和三七、三八年度における利益金の収入金に対する比率さえもこれより高く、被控訴人主張のそれは右四一・二パーセントよりも異常に高くなるが、控訴人の場合他の同業者と比較して所得率が異常に高くなる特殊な事情は全く存しないから、控訴人が不当に不利益な課税をされていることは明らかである。

2  証拠関係

(一)  控訴人は、甲第二、三号証の各一ないし四、第四ないし一三号証を提出し、当審証人沢井敬雄の証言を援用し、

(二)  被控訴人は、甲第二、三号証の各二及び四の成立を認め、その余の右甲号各証の成立は不知と答えた。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は原判決認容の限度において正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は次に付加、訂正するほか、原判決理由中に説示するとおりであるから、右理由記載(ただし、原判決二六枚目裏一二行目に「上国科ちず子」とあるのを「上国料ちづ子」と、同三四枚目裏七行目、同三七枚目表六行目及び同三八枚目表三行目にそれぞれ「仮空」とあるのをいずれも「架空」と、同三七枚目表三行目に「被告」とあるのを「原告」と、同四〇枚目表一一行目に「なしろ」とあるのを「むしろ」と、原判決添付別表29、30の各2の「給料」欄にそれぞれ「加空」とあるのをいずれも「架空」とそれぞれ訂正する。)をすべてここに引用する。

1  税法上課税所得計算の方法としては収入金額についても支出経費額についても現実の金額によるという実額課税が原則とされているが、これには納税者の継続した会計帳簿の具備、税務調査への協力等が必要であり、しからざる限り課税庁として実額を把握することは実際上きわめて困難である そこで課税庁では納税者の帳簿書類等の不備、不正確、税務調査に対する応答拒否又は不誠実等の例外的な場合に、その財産、債務の増減、収入、収出の状況、従業員数、その他事業の規模等によりその所得を推計して算出することができるものとされている(法人税法一三一条)。推計課税は間接事実からの推計もしくは標準所得率等の利用による類比又は比準的推論によって右実績にできる限り近似した額で認定しようとするものであるから、当該推計方法によったこと自体正当であり、推計の基礎となる事実が真実で標準所得率等が統計的に正確であり、推計方法が合理的であることにつき、課税庁において立証しなければならないものとされているのである。本件においては課税庁である被控訴人において推計課税をしたものではなく、もとより標準所得率表ないし効率表を提示しているものではなく、反対に納税者である控訴人において入手したいわゆる法人の効率表と題する書面(甲第一号証ないし六)により被控訴人に対し推計課税によるべき旨を求めているものであるところ、原審及び当審証人沢井敬雄の証言によると、右効率表はその出所が不明であるばかりでなく、その作成の過程、とりわけ調査の主体、対象の選定、調査年度などが明らかでなく、真正に成立したものとは認めがたいから、控訴人において支出経費を裏付ける資料が散逸して存在しないからといって、かかる効率表の適用を求めること自体失当といわなければならない。

2  原判決三九枚目裏五、六行目に「弁論の全趣旨」とあるのを「当審証人沢井敬雄の証言により成立を認めうる甲第二、三号証の各一」と訂正する。

3  控訴人が当審において提出、援用した証拠を検討しても、右引用にかかる原審の事実認定及び判断を動かすに足りない。

二  以上の次第で、原判決は相当であって本件控訴は理由がないから棄却すべく、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮崎福二 裁判官 田坂友男 裁判官 中田耕三)

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